
レガシア保険㈱-① 部長 優美 55歳
私は福本優美、55歳 独身 結婚歴なし。中堅損害保険会社であるレガシア保険でVOC対応推進部の部長である。VOCとは「Voice of Customer」の頭文字をとったものであり、レガシア保険に集まるあらゆる顧客の声の収集・分析・管理をし改善活動につなげる事をミッションとした部署である。日本橋の隅田川沿いに建つマンション8階に愛犬1匹とすむ。休日は愛犬と終日過ごす。
いままで転職3回、3社目のレガシア保険ではすでに20年超経過、この間に結婚できるだろう、子供もできるだろう、私も普通の幸せを手にいれられるであろう、と思っていたが未だに一人。このまま60歳を過ぎずっと一人で暮らしていくことになるのだろうか。
そんな事を言っていても始まらない。とにかく今は仕事に打ち込むしかない。せっかく手に入れた部長職を手放すわけにいかない。唯一これが私のアイデンティティーである。私がいままで生きてきた証だ。部長職を手放す事だけは絶対に避けなければならない。
部長といっても部員は自身をいれてたった7名、中堅の保険会社はそんなものだ。小さな会社であっても社員のモチベーションを維持するためには役職が必要である。
でもそんな事は関係ない。レガシア保険は中堅の保険会社であるが自動車保険においては大手につぐ地位であり、注目の保険会社だ。その保険会社の部長である。世の中的にみれば十分な出世である。定年まであと5年とにかく部長職を維持することに全神経を集中する。
それにはとにかく自身の主張をする事など無く、役員のいう事を忠実にこなす。役員の犬になることがすべてだ。たとえ役員が訳の分からないことを言っていても、顧客のためにならないことを言っていても、会社にとってマイナスになることがわかっていても、そんなことは関係ない。私が部長職でいることがすべてだ。そうしないと私自身が生きてきた意味がない。
続く